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ただ、このおっさん・・・・告白してねええ
どうなんだこれ
リタっち流されちゃらめぇぇ
まただ、またみてる。
視線があたしを眺めるたびによくわからない感覚が背筋を這って上っていく。
おっさんはどんな顔をしてあたしを見つめているんだろう。
振り返って見てみたい気もするけど、絶対にそんなことはしない。
大体あたしは研究をしてて、おっさんなんか気にしてないんだから。
少なくともおっさんにはそう思わせないといけない。
正直に言おう。あたしは恐れている。
あたしがこの視線にリアクションを返すことで、変ってしまうナニカが怖い。
それがなにかわからないけれど、今までと全然変わってしまうことだけは確信している。
どうしてだかペンを持つ手が震えて止まない。
あ、やだ間違えた。
二重線を入れるけど慌てたせいかペン先が紙に引っかかって余計にひどくなっていく。
諦めて次のページを捲くったけど頭の中の言葉が文章に纏まらない。
今までこんなことはなかった。
どこでだって研究、そのためだったらあたしはあたしの世界に閉じ篭れたのに。
止めてこれ以上あたしの世界を壊さないで。
「リタっち、集中できてないんじゃないの?」
「うっさいわね」
入り口付近にいたのが背後にだんだん近づいてくる気配がする。
あたしは振り返らない。絶対に。
足音がだんだん大きくなるたびに、今すぐこの椅子を蹴って逃げ出したい衝動に駆られる。
だけど、逃げ出すなんてそれこそ変に思われる。
これくらいなんともない。
大丈夫。
いつもの調子でウザイって言って、ほら手を払って。
「ウザイ」
背後を見ないで、肩に乗せてきた手を払おうとした手は、逆に捕らえられた。
ガサガサしている、おっさんの大きな掌。
「リタっちそろそろ寝ない?睡眠不足はお肌に悪いわよ~」
耳元で囁かれて、吐息が耳にかかる。
その声を聞くとまるで毒を注ぎ込まれているように、頭がくらくらしてきた。
あたしの思考回路を溶かす、恐ろしい罠。
きっとあたしの顔は今真っ赤になっているんだろう。体温が急激に上昇してきた。
「リタ・・・」
「やっ」
あたしの知らない声があたしの口から漏れる。
なんでこんなときに名前を呼ぶの。いつもみたいにふざければいいじゃないの!
堪らずに振り返るって睨み付けると、知らない笑みを浮かべたおっさんの顔があった。
悔しい悔しい!
あたしの抵抗なんてほんのささやかなもので、おっさんには獲物がもがいているのを眺めるような愉しみでしかなかった。
あたしは最初から最後までおっさんの掌の上だったんだ。
今更悟ったところで、遅かった。
だってもう捕まってしまった。
逃げ出せないあたしは目を瞑って、ただこれから起きることに、備えることしかできなかった。