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仕事中にふっと、思いついて頭の中で延々と考えてました。
それでパソコンに打つ前にレイリタを求めてネットを彷徨うと、丁度親子ネタがちらほら。しかも同じ日にというじゃありませんか。うっわあすごいシンクロ!と一人できゃっきゃしてました。
キモイよ自分。あっちはもっと明るいよ。
鬼/束/ち/ひ/ろさんを作業用BGMに掛けつつ執筆したらさくさく進むこと。
自分でも驚きました。こんなこと滅多にない。
以下注意事項です。
未来の話で、息子(捏造)の独白です。
リタ(母)との会話。
そしておっさんは死亡済み。たぶんウチのサイトでは珍しく良識派だったと思われる。
ある意味死にネタではありますが暗くは無いです。
大丈夫な方はどうぞ。
私に父の記憶はない。
私がまだ母の胎内にいるころに、亡くなったと聞いている。
女手一つで育った割には、母の仲間や父の知り合いだというたくさんの人に囲まれて育ったから特に寂しくはなかった。ただ、友人の話に聞く父という存在が自分にはないのだな、ということだけは感じていた。
幼いころに父についてを部下だったという騎士の人々に尋ねれば、「素晴らしく、将に騎士の鏡のような方だった」と答えられた。
当時はそれを素直に受け止めていたがそれなりに物事を考える年頃になってくると、当時20も満たない小娘を結婚したとは言え孕まして挙句にさっさと死ぬ、20も年上の男・・・それのどこが「騎士の鏡だ」と思ってしまった。
もしかしてあの言葉は幼かった私を傷つけないための優しい嘘だったのかと思ったが、それにしては父を慕う彼等の言葉に偽りは見られなかったし、告げた彼らもまた誠実な騎士だった。
そして私を齢18で産んだ母は幼いころから大人の世界で生きてきたらしくシビアな価値観の持ち主だったし、聡明でもあった。
結局、散々悩んだ末に母に尋ねてみた。曰く、父はどのようなひとだったのかと。
「おっさん」
あっけらかんとした答えが返ってきた。あ、あの、もう少し詳しく・・・。
「だからおっさん。後ろ暗いこと抱えて、根が真面目なもんだから考え過ぎて、昔のことを引き摺る、割と面倒くさくてどうしようもないおっさん」
そう言って研究の休憩にと差し入れたココアを啜る母は身内の贔屓目なしに見ても美しい。
放っておいたらいつまでも研究と考察を続けてしまう脅威の集中力は学者としては素晴らしいのだろうが、傍で見ているこちらとしては危なっかしいことこの上ない。
「あと女好き。あちこちで女と見れば口説いてたわ」
そう言って伯母の名前を挙げた。彼女のような女性らしい、出るところが出た体型が好みだったらしい。
いや、伯母も母も確かに美しい。美しいのだが・・・正直言って母の体型は伯母とかなり異なる。
母はすらっとした華奢な体型をしており、女性らしい丸みからは程遠い。
それでは母は、父の好みのタイプと足りえなかったのではないだろうか。
「初めて会ったときあたしは15よ?確かに、アイツから見れば・・・まあ、ガキで射程外だったでしょうね」
話は少々外れるが、母の周りには男女問わず美形が多かった。その種類も選り取りみどりだ。
しかも中身もそれに伴った強さや価値観を備えており、おかげで自分の中の「美しさ」に対する基準が高すぎるという結果に陥ってしまった。
友人達とどこの誰が美人かという話になると、彼らが推す女性がそこまで魅力的に思えず、話についていけなかった。
「嘘が抜群に上手くて、本音はいつだって隠してた。あいつの吐いた嘘10のうち、あたしが見抜けたのは1か2だったと思うわ」
自らの身を削ってまでも真実を探り当てようともがく探求者ならではだろうか。
翠の瞳の輝きが、いつまでも年齢を感じさせない若々しさと、女性としての魅力を感じる。
その姿からは魔導器を失った混乱期のテルカ=リュミレースを安定に導く貢献をした偉大な発明をいくつも行った学者としてその名を馳せている女性とはとても思えない。
二人で歩けば私が幼いころは少し歳の離れた姉弟、歳を重ねてからは恋人と間違われることが多かった。
おかげで何回口説いた女性に振られたことか。
未亡人というのもまた魅力的な響きだったらしい。
たまたま街で出会った巡回中の同僚に母を紹介したときのことなど思い出したくも無い。
何が父と呼べ、だ。貴様なぞに母は勿体無さ過ぎるとその後『少々』手荒く扱ってやった。
魅力的な母に対する求婚者は私が知っているだけでも両手で足りず、その一切を跳ね除け今に至るまで母は寡婦を貫いた。
それだけの魅力が父にあるのではと思っていたのだが、真実は違ったのか。
再婚しなかったのはただ単に、父で男に懲りたからで、矢張り想像道理私は父が当時幼かった母を良い様に手篭めにした結果なのだろうか。
「結婚するときに約束したわ。おっさんが死んでも、それを引き摺らないこと。お願いだからさっさと他にイイ男見つけてくれって頼まれたわ」
私なら、いや誰だって死後も自分だけを愛して欲しいと願うはず。
父は違ったのか。
「散々無理してきたからね。・・・・あいつの躰も、それを支える魔導器も、ボロボロだったわ。このあたしが手の施しようがないくらいに。
もともと、自分のことをいつでも死んでもいい扱いをして生きてきたんじゃないかしら。
あたしにできたのはせいぜい、負担をかけないよう、これ以上ダメージを広げないように調整することだけ。あそこまで自分の無力を感じたのは初めてだったわ。
躊躇ったけど本人のことでしょう?
その診断をおっさんに伝えたら、そうかって笑ってたわ。おっさんの癖に悟ったみたいな顔して。
もっと足掻けばいいのに、むしろ安心さえしてた。よっぽど置いていかれるのが嫌だったんでしょうね。
まだ生きてるのに、誰も一番近い場所には近づけないで死ぬ準備をしてるのが許せなかった。
だから決めたの。
『あいつの最期を一番近くで見届けるのはあたしだ』って。
散々断られたし、いい加減にしろって本気で怒鳴られもしたわ。
こんな死人に付き合うことないって。
それでも諦めなかった。喧嘩して、怒鳴りあって、お互いに本音で言いたいことぶつけ合って。
あれが最初で最後だったでしょうね、あそこまで二人とも素直になるなんて」
その戦いに母が勝った。だから私がいる?
「そ。最後はあたしの押しに折れたってところかしら。溜息吐いて、結局指輪をくれたの。
あの条件つきでね。勿論、約束は守るわよ。イイ男がいれば、再婚するつもりもある。ただ・・・・」
「今のところ、おっさんより、イイ男に出会ってない。それだけよ」
悪戯を仕掛けた子供のように無邪気に微笑む母は、母ではなく初めて出会った『女性』に見えた。
恐らく、これが父に見せていた女としての顔だったのだろう。
どうしようもないと言われながら、母にとってこれ以上ない男だったという父。
そしてこれからも父以上の男は母の前に現れないのだろう。
そこまで母に愛された父を羨ましいと思った。